「もし、事務員さんが明日から1か月出社できなくなったら、来月の給与は予定どおり支払えますか?」
もしこの質問に「イエス」と即答できない場合、その会社の人事業務は属人化しているかもしれません。この記事では、中小企業の社長様や事務員さんに向けて、人事業務の属人化がなぜ起きるのか。俗人化により何が起きるのか、どう解消するのかについて、事例とともに解説します。
人事業務の属人化とは
人事労務の属人化とは、業務に必要な知識・手順・データ・判断基準が特定の担当者に集中し、その人がいなければ他の人が同じ業務を遂行できない状態のことです。たとえば、次のような状態です。
- 給与計算を一人だけが行い、計算手順や例外処理を他の人が知らない
- 社会保険の手続きや期限を、担当者だけが管理している
- マニュアルがなく、後任がゼロから業務を理解しなければならない
属人化は、担当者が通常どおり勤務している間は表面化しにくく、退職や長期休職が決まった途端に大きな経営課題になります。
なぜ、中小企業で属人化が起きやすいのか
主な要因は4つあります。
- 給与情報の秘匿性:給与や手当は個人情報のため共有しづらく、知る人が限られる
- 独自ルールと例外処理の積み重ね:手当の支給条件や通勤費の上限などが年々増え、口頭の申し送りで運用が続く
- 慢性的な人手不足:経理や総務を兼任する一人が、給与計算まで担っている
- 引き継ぎ機会がない:長年同じ人が担当し、手順の文書化が後回しになる
つまり、属人化は誰かの怠慢ではなく、中小企業の構造から自然に生まれるものです。
事務員さんが1か月いなくなったとしたら・・・
仮にですが、従業員40名の建設会社を想像してください。事務員のAさんは勤続15年で、給与計算、勤怠集計、社会保険や雇用保険の届出、許可関係の書類、外国人スタッフの在留カードの管理まで、一人で担っています。
ある日、Aさんが急に入院しました。
- 給料日が目前なのに、誰も計算できない。 現場手当や日当、通勤費の上限といった例外ルールは、Aさんの頭の中にしかありません。
- 新入社員の雇用保険の届出が止まる。 雇用保険の資格取得届は、被保険者になった月の翌月10日が提出期限です。期限を過ぎると、原則として追加の添付書類が必要になります。
- 在留期限に誰も気づかない。 外国人スタッフの在留期限は、Aさんがカードを見て把握していました。
社長もしくは全く経験のない従業員の方が、慣れない書類を何時間も探し回る、ことになります。
これは空想の話ですが、どこの会社でも起こりうる話でもあります。 ある社労士事務所が公開している事例にも、従業員10〜30人規模の環境・リサイクル事業の会社で、給与計算を担当していた総務の社員が突然退職し、給料日が目前なのに事業主以外に適任者がいなかった、というケースがあったそうです。
人事の属人化は「許認可」のリスクにもなる
人事の情報(誰が、いつ入社し、どんな資格や在留資格を持っているか)は、実は許認可とつながっています。ここが見落とされやすい点です。
| 場面 | 人事で起きること | 許認可・法令上のリスク |
|---|---|---|
| 建設業許可 | 専任技術者や常勤役員等が退職した | 許可の要件を欠く可能性がある。愛知県では、これらの変更は事実発生後2週間以内に届出が必要 |
| 建設業許可 | 社会保険の加入状況が変わった | 加入状況の変更も、2週間以内の届出が求められる。社会保険への適切な加入は許可の要件 |
| 建設業許可 | 決算後の届出を忘れた | 事業年度終了届は決算後4か月以内。未提出だと更新や経営事項審査に影響する |
| 外国人雇用 | 在留期限が切れたまま雇用を続けた | 在留期限の切れた人を働かせると不法就労となり、事業主も処罰の対象になる。在留カードの確認を怠った過失でも処罰されうる |
| 外国人雇用 | 雇入れ・離職の届出をしなかった | ハローワークへの外国人雇用状況の届出を怠ると、30万円以下の罰金の対象 |
担当者の頭の中にしかない情報が、許可の失効や法令違反につながる。
これが、人事業務の属人化の本当の怖さです。
制度変更も「気づく人」が一人だと危険
2026年10月1日から、社会保険の適用拡大で、短時間労働者の加入要件のうち月額8.8万円の賃金要件が撤廃されました。加入の線は、週20時間以上、2か月超の雇用見込み、学生でないという条件に集約されています。さらに2027年10月から、企業規模要件が段階的に引き下げられ、最終的に2035年10月には全事業所が対象となる予定です。
「当面は対象外」と思っていても、準備には、対象者の洗い出し、雇用契約書や就業規則の整備、手続きの運用づくりなど、相応の時間がかかります。制度変更に気づき、社内に落とす役目を一人に頼っていると、対応が後手に回ります。
属人化チェックリスト
- 給与計算の手順書がなく、例外ルールが口頭でしか伝わっていない
- 事務員さんが休むと、請求・給与・届出のどれかが止まる
- 社会保険・雇用保険・労働保険の期限を、誰が見ているか即答できない
- 専任技術者や外国人スタッフの資格・期限を、一覧で把握していない
- 担当者のPCやExcelの中に、他の人が見られない管理表がある
- 法改正の情報を、誰が確認して社内に伝えているか決まっていない
- 担当者が辞めたら「何を引き継げばいいか」を説明できない
- 社長が、書類や届出の状況を把握できていない
3つ以上当てはまるなら、対策を始める時期です。
属人化を解消する5ステップ
ステップ1:年間の業務と期限を洗い出す
月次、年次、随時に分けて、人事の業務を書き出します。たとえば、雇用保険の資格取得届は翌月10日まで、労働保険の年度更新は毎年6月1日から7月10日まで、といった期限もここに載せます。
ステップ2:担当者の頭の中を引き出す
担当者に、実際の作業をしながら手順を話してもらい、画面の写真やチェックリストにします。「なぜそうするか」を書くと、後任が判断できます。
ステップ3:例外ルールを一覧にする
手当の条件、計算の例外、特別な取り決めを、一覧表にします。属人化の中身は、多くの場合、この例外ルールです。
ステップ4:バックアップ担当をつくる
主担当と副担当を決め、年に1回は副担当が実際に処理します。給与情報の秘匿性が理由で共有しにくい場合は、閲覧できる範囲を決めて、共有の仕組みを設計します。
ステップ5:期限を「見える化」し、最後にツールを入れる
共有カレンダーと期限管理表で、期限を誰でも見られるようにします。クラウドの給与・勤怠ツールは、手順が整理されてから導入すると効果が出ます。
自社でやること、専門家に任せることを整理する
ここで大切なのが、法律上の線引きです。
| 領域 | 担当 |
|---|---|
| 社会保険・労働保険の届出の作成・提出代行、就業規則・賃金台帳・36協定などの法定書類の作成 | 社会保険労務士 |
| 建設業許可の申請・届出、許認可の手続き、在留資格(ビザ)に関する手続き | 行政書士 |
| 業務の洗い出し、手順書、期限管理表、引き継ぎシートなど、仕組みの整備 | 社内+バックオフィス支援 |
社会保険や労働保険の手続きの作成・提出代行、就業規則などの作成は、社会保険労務士法で社労士の独占業務とされています。無資格の人が報酬を得て業として行うことは認められていませんので、当事務所は、これらを代行しません。 手続きを社労士さんにお願いする場合も、情報や手順が整理されていれば、依頼がスムーズになり、コストの面でもムダが減ります。
ふくおか行政書士事務所のバックオフィス支援
当事務所のバックオフィス支援は、「代行」ではなく、手作業のExcel管理や請求書などの仕組み・テンプレートを整えて、事務の時間そのものを減らすサービスです。人事の分野では、年間業務カレンダー、手順書、例外ルール一覧、期限管理表、引き継ぎシートなどの整備をお手伝いします。建設業許可や在留資格に関わる期限も、あわせて整理できます。
まずは、無料の業務改善トライアルをご利用ください。
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よくある質問
Q. 人事の属人化は、従業員が少ない会社でも問題ですか?
A. むしろ少人数ほど深刻です。担当者が一人しかいないため、その人が欠けると代わりがいません。
Q. 社労士に頼めば、属人化は解消しますか?
A. 手続きの代行は任せられますが、社内の情報や例外ルールの整理は、会社側の作業として残ります。両方を整えると、より安定します。
Q. 行政書士は、給与計算や社会保険の手続きも頼めますか?
A. 社会保険や労働保険の手続き代行は、社会保険労務士の業務です。行政書士は、許認可や在留資格などの手続きを担当します。
Q. 何から始めればいいですか?
A. まず、年間の業務と期限の洗い出しです。1枚の紙に書き出すだけで、属人化している部分が見えてきます。
まとめ
- 人事業務の属人化は、退職や休職の日に一気に表面化する
- 人事の情報は、建設業許可や在留資格などの許認可ともつながっている
- 解消の順番は「洗い出し→手順書→例外ルール→バックアップ→期限の見える化」
- 手続きの代行は社労士、許認可や在留資格は行政書士、仕組みづくりは社内と外部の支援で、役割を分ける
「うちはどこから手をつければいい?」と感じたら、無料の業務改善トライアルで、まず現状を一緒に整理しましょう。
参考

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