「求人を出しても応募が来ない」「やっと入った若手が、数年で辞めていく」。多くの建設会社の社長が抱える悩みです。
ただ、人が足りない原因は「採用できないこと」だけでしょうか。私はもう一つの原因が、今いる人の時間が、書類や事務に吸われていることにあると思います。
この記事では、建設業の人材不足とバックオフィス(事務)の関係を整理し、実在の建設会社の事例とともに、今日から始められる対策を紹介します。
数字で見る:建設業の人材不足は続いている
国土交通省の資料によると、建設業の就業者は平成9年の685万人から、令和6年には477万人まで減りました。年齢構成も偏っており、55歳以上が36.7%、29歳以下は11.7%にとどまります。
働き方の面でも課題があります。建設業の年間総労働時間は約1,966時間で、調査対象産業全体(約1,637時間)より300時間ほど長い状況です。4週8休以上(完全週休2日)を実現できている企業も、全体の1割に満たないとされています。
さらに2024年4月から、建設業にも時間外労働の罰則付き上限規制が適用されています。原則は月45時間・年360時間で、特別な事情があっても、年720時間以内、月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間以内という上限があります。
つまり、「人を増やせない」「残業で乗り切れない」という二重の壁があります。今いる人の時間を、何に使うかが問われているのです。
こんな悩み、ありませんか?
- 現場監督が現場から戻ってから、夜に書類を作っている
- 日報、写真整理、安全書類、請求の確認が、特定の人に集中している
- 事務員さんが休むと、請求や支払いが止まる(やり方が頭の中にしかない)
- 決算変更届や許可の更新、専任技術者の変更届の期限を、誰が見ているか即答できない
- 社長が見積・請求・社会保険の手続きまで抱え、営業や採用に時間が取れない
- 現場から事務所へ戻る、紙を回す、転記するのが当たり前になっている
- 求人を出しても、休日や残業の面で他社に負けていると感じる
- 「事務は誰でもできる」と考え、引き継ぎや育成を後回しにしている
3つ以上当てはまるなら、人材不足の原因の一部は、事務の仕組みにあるかもしれません。
よくある光景(典型例)
現場監督のBさんは、日中に3つの現場を回り、事務所に戻るのは夕方です。そこから日報、写真整理、安全書類の確認が始まり、気づけば20時。事務員のCさんは請求処理で手一杯で、書類作成までは頼めません。社長は夜に見積を作っています。誰も悪くないのに、全員が時間に追われている状態です。
人材不足と事務は、一本の線でつながっている
① 現場監督の残業の正体は「書類」
建設業では、業務の個別性が高く、ノウハウが属人化しやすい特徴があります。さらに技術者は、日中は現場に拘束され、書類作成が現場終了後になりがちです。これが長時間労働の要因の一つとされています。労働基準監督署も、現場管理者の書類作成などの事務作業が、時間外労働を増やしているとみています。
② 長時間労働と休日の少なさが、採用と定着を妨げる
求人で人が集まらない理由は、給与だけではありません。休日と働き方が、応募の決め手になります。実際に、完全週休2日制を導入して求人したところ人が集まるようになった、という建設会社の事例もあります(後述)。
③ 事務が属人化すると、退職が経営リスクになる
事務員さんの業務が本人の頭の中だけにあると、退職や休職で請求・支払い・各種届出が止まります。上限規制の下では、事務が滞ったときに残業で取り返すことも難しくなっています。
④ 社長が事務を抱えると、採用と営業に手が回らない
中小・零細企業では、働き手が見つからず、社長自らがバックオフィス業務をしている例も珍しくありません。社長の時間が事務に使われるほど、採用や営業という、社長にしかできない仕事が後回しになります。
実際に成果を出した建設会社の事例
宮崎県が令和6年3月にまとめた事例集から、4社を紹介します。
株式会社岡﨑組:紙・回覧・帰社をやめる
「紙で印刷しない」「紙で回覧しない」「現場からわざわざ会社に戻らない」を徹底し、クラウドで情報を共有しました。建設技術者の月残業は、100時間から30時間以下になったとされています。新入社員でもすぐに理解できる仕組みにしたことで業務が平準化し、教える側の効率も上がりました。
松本建設株式会社:事務員(サポート人材)が書類を引き受ける
技術者でなくてもできる業務を、サポート人材として雇用した女性職員が担当しています。伝票整理、安全管理書類、出来形・品質管理の書類作成、CAD、資格管理などです。作成した書類は技術者が最後に確認します。事務の分担によって、技術者が本来の業務に集中でき、残業と休日出勤が減りました。
富岡建設株式会社:週休2日と分業で、人が集まる会社に
技術者不足に悩んでいたものの、求人をしても集まらなかったため、完全週休2日制を導入して募集したところ、人が集まるようになりました。1現場に2〜4人の技術者を配置し、一人が業務を抱え込まない体制もつくり、離職率の低下につながったとされています。
株式会社坂下組:手書きをデジタル化し、残業を削減
手書きの調書や請求書のデジタル化、リモート会議、ICT施工などを進め、建設技術者の月平均残業が20時間削減されたとされています。
ここで注目したいのは、事務員さんの存在が、人材不足の解決策そのものになっている点です。事務員は「補助」ではなく、現場の人を現場の仕事に集中させるための要の存在です。
今日からできる:建設会社のバックオフィス改善5ステップ
ステップ1:現場監督の「書類仕事」を洗い出す
誰が、どの書類を、週に何時間かけているかを書き出します。日報、写真整理、安全書類、出来形・品質の書類、請求関係などです。
ステップ2:事務所でもできる仕事を、事務に移す(分業)
現場でしかできない仕事と、事務所でもできる仕事に分けます。書類作成を担う「建設ディレクター」という職域も広がっており、現場技術者の書類作成のうち7割が移せると想定されています。最終確認は技術者が行う形にすれば、品質も守れます。
ステップ3:事務員の仕事を見える化し、標準化する
手順書、月間カレンダー、チェックリスト、Excelのテンプレートにして、「あの人しか分からない」状態を減らします。法定期限は、特に一覧化しておきたい項目です。愛知県の建設業許可では、事業年度終了届(決算変更届)は決算後4か月以内、許可の更新は満了の3か月前から30日前まで、専任技術者などの変更は2週間以内が目安です。詳しくは愛知県の建設業・不動産業のページで確認してください。
ステップ4:紙・転記・移動を減らす
直行直帰、クラウド勤怠、電子請求書、写真管理アプリなどを活用します。順番は「整理してから、ツール」です。ムダの多い業務をそのままシステムにすると、ムダが固定されます。なお、国土交通省も工事書類のスリム化を進めており、発注者との書類の役割分担を見直す動きもあります。
ステップ5:浮いた時間を、採用・定着・営業に使う
削減した時間は、休日の確保、教育、見積対応、採用活動に回します。時間が浮いても使い道が決まっていないと、別の仕事で埋まってしまいます。
よくある3つの失敗
- ツールから入る:機能の多いソフトを入れたが、使う手順が決まっておらず、結局紙とExcelが残る
- 事務員さんに丸投げする:現場が協力しないまま、事務員さんの負担だけが増える
- 事務員さんの処遇を後回しにする:役割が増えるのに評価が変わらず、不満が出て離職につながる
社長・事務員様へ
社長様へ:事務の見える化と標準化は、退職リスクへの備えであり、現場の残業対策であり、採用力を高める投資でもあります。
事務員様へ:「現場監督の書類仕事を、週に数時間、私が引き取れるか試したい。まず手順を書き出させてください」と、社長に伝えてみてください。事務の仕事を見える化することは、会社を守る仕事です。
社内だけで進めにくいときは
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事務を丸ごと代行するのではなく、Excel管理や請求書などの仕組みとテンプレートを整えて、事務の時間そのものを減らすお手伝いです。許可・届出の期限管理も、あわせて整理できます。事務作業をもっと楽にしたいというお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
まとめ
- 人材不足は、採用だけでなく「今いる人の時間の使い方」の問題でもある
- 現場監督の残業の大きな要因は書類作成。事務との分業で減らせる
- 事務員さんの仕事の見える化と標準化は、退職リスクと採用力の両方に効く
- 順番は「洗い出し→分業→標準化→ツール→浮いた時間の活用」

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